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フロリダといえば……やはりディズニーワールドらしい。本シリーズはフロリダが舞台なのですが、ガイドブックを見てみると、ディズニーワールドとヘミングウェイについて以外、詳しいことはほとんど書かれておらず、同じリゾート地でもカリフォルニアとはずいぶん日本における情報の温度差があるものだと実感しました(しかもガイドブックのヘミングウェイ記念館に関する記述は間違っていた)。
 本書の主人公、ヘレン・ホーソーンがよんどころない事情で故郷を離れて国中をジグザグに逃げ回った末に流れ着いたのが、フロリダはフォートローダーデール市。実はその事情ゆえに、ヘレンは身
元が割れるようなデータをコンピューターに残すことができないため、どこで働くにしろ給料を現金払いにしてもらわなければなりません。しかし、その条件で働ける職場はなかなか見つからず、さんざんの苦労の末に雇ってもらえたのが、とある高級ブティックでした。店長も常連客も上から下まで整形美人ばかりという職場で、気後れするヘレンですが、働かないわけにはいきません。下宿の家賃を払わなければ。
 ヘレンが現金七千ドルの詰まったスーツケースごと(足がつかないようにするため、銀行口座を開けない)転がりこんだのは、<ザ・コロナード・トロピック・アパートメント>という風変わりな下宿でした。個性的な大家、風変わりな下宿人たちと貧しいながらも愉しく暮らし始めたヘレンですが、勤務先のブティックでトラブルの匂いがし始めます。きな臭いな、と思ってはいても、ようやく見つけた職場です。ことを荒立ててまたもや無職になるのは避けたい。見ざる、聞かざるでやり過ごそうとしたヘレンですが……このあとは本編でどうぞ。
 本書はひょんなことからがけっぷち人生に足を踏み入れることになったヘレン・ホーソーンが主人公のシリーズ一作目です。次作以降もヘレンの行く先々でトラブルが発生し、例の<事情>により身元を知られるわけにいかない彼女は、下宿の仲間たちの力を借りつつ、問題を解決していきます。
 ふと思ったのですが、かの名探偵エラリー・クィーンも、彼が行く先々で殺人事件が起きるので、「あんたが来たってことは殺人が起きるんじゃないのか」と心配されたものですが(そして実際に事件
は起きた)、その疫病神ぶりは、実はヘレンもエラリー・クィーンといい勝負。彼女もまた名探偵といえましょう(え? そこじゃない?)。
 作中に出てくる<バーカラウンジャー>について、ひとこと。実はこれは商品名ではなく、バーカラウンジャー社というくつろぎ椅子メーカーがありまして、ここの巨大な椅子にでんとおさまってテレビを見る、というのがアメリカ人のリラックスタイムらしいのです。映画やドラマにも、巨大なリクライニングシートに坐って、おなかにピザや缶ビールをのせてテレビを見ているおじさんが出てきますね。あれです。マッサージ椅子を思い浮かべていただけると、感じがわかると思います。日本家屋には向かない大きさですね。
 また、ブティックが舞台ということで、婦人服のサイズがやたらと出てきますが、これについてもひとことおことわりを申し上げておきます。日本のサイズと正確に対応させることは難しいらしく、どの資料も一致しなかったので、結局、在米中のミチコさんに、感覚的に近そうな数字を選んでいただきました。本書ではこの数字を参考にしています。ミチコさん、どうもありがとうございました。
 冒頭で触れたとおり、フロリダに関する町案内は日本において豊富というわけではありません。本シリーズでは運河の町、高級リゾートのフォートローダーデール市を中心にフロリダの魅力を、この地に住み、働き、謎を解くために奔走するヘレンの眼を通じてお伝えしていきます。読者の皆様には旅行気分で、末永くお付き合いいただければ幸いです。

HPあとがきおまけ

いや〜。若めの女性の素人探偵が活躍するコージーものは初めてだったのですが、むずかしかった〜。
こういうほうが簡単そうに見えて、意外とむずかしいです。かたくなってもいけないし、崩れすぎても
いけないし。おば〜ちゃんたちのほうが、やりやすいですね。なんでだ。
さて、今回、わたしのお気に入りのキャラは、キャディラックを乗り回す老婦人と、リンカーン・コンチネンタルを乗り回す老婦人です。なんでだ。
本格ミステリというよりも、漫画の『有閑倶楽部』に雰囲気が似ています。
楽しい時間つぶしに読んでいただけますように。

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