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訳者あとがき

『猿来たりなば』を刊行した時に、いちばん多く寄せられた質問は、「なぜシリーズ一作目から順番通りに訳さないのか」というものでした。
 理由は簡単。
 シリーズ全部を紹介できるかどうか、わからなかったから〜。
 トビー&ジョージのシリーズを5冊とも読んだわたしは、「この『猿来たりなば』は最高にユニークだから、ぜひ紹介したい」と思いましたが、いかんせん、これは4作目なのでした。
 編集部からは「おもしろいシリーズだから,評判がよければ、せめて2、3冊は出したい、と言われていました。「ひょっとしてひょっとして、ものすごく評判がよければ、全部出せるかも」ううむ。
 本命に行きつくまでに息切れしてしまっては困る。
 おまけに、そもそもフェラーズという作家が日本では地味という評価しか受けていなかったので、最初に強烈なインパクトのある作品でミステリファンにアピールしないと、振り向いてもらえないかもしれない。
 というわけで、当時の担当しと策を練った結果,『猿来たりなば』をトップバッターにもっていったのでした。
 作戦は大成功。インパクト勝ちで、いきなり『このミステリーがすごい!』にランクインするという快挙をなしとげ、3冊は確実に出せることになりました。
 が、このあと5冊目まで行き着けるだろうか〜。
 ということを、なんの気なしに山口雅也さんにぽろっと話したら「そんなの、自分で勝手に訳して、どんどんもってっちゃえばいいんだよ」と、たいへん親切なアドバイスをいただきました。
 よし。
 今度は個人的に策を練った私は、「次にどれも訳すか、読み比べて決めるから、残る3冊(当時、すでに2冊目は訳し終えていた)の原書を貸してください」と頼みました。人のよい担当さんはすっかりだまされ、3冊とも渡してくれたのでした。
 ふっ。原書さえ手元にあれば、こっちのもの。
 その後、仕事に隙間ができるたびに、「あ、そうそう、トビー&ジョージのシリーズ、あまり間をあけると、キャラ忘れちゃうから、やっておきますね」「え?」「ねっ!」「は、はあ」という、正式な(?)ビジネストークをはさんで仕事を進め、できあがると、そんな仕事を発注したかな、と怪訝そうな顔の担当さんに、「はい、できました〜」と原稿を押しつけてきました。
 まさか本当にこんな作戦で最後までいけるとは・・。山口さん、その節はありがとうございました。

 トビー&ジョージのやりとりが掛け合い漫才のようで愉しい、と言ってくださる読者のかたがたに、ちょっとした告白を。
 実は、『猿来たりなば』がわたしの翻訳家デビュー作でした。キャラクターや台詞まわしをどうしよう、と、この新米翻訳家は悩みに悩んでいたのですが、浅羽莢子さんのすばらしく現代的で生き生きとしたピーター卿シリーズを拝読して、「ああ、クラシックなミステリも、ここまでセリフをやわらかくすることができるんだ」と眼からうろこが落ちた気がしました。それまでは、古い作品は堅苦しく訳すものだと思いこんでいたのです。浅羽さんの訳をわたしが読んでいなければ、このシリーズの訳はかなり違ったものになっていたと思います。

 わたし自信が大ファンだった、このふたりのシリーズが終わってしまうのはとても寂しいですが、同時にようやく宿題を果たせた、という安堵の気持ちでいっぱいです。
 トビー&ジョージを愛してくださる皆様には、ふたりになり代わって御礼を申し上げます。最後まで紹介させていただけたのは、ファンの皆様のおかげです。ありがとうございました。
 ここにふたりの最後の冒険譚をお届けします。お愉しみいただければ幸いです。

ホームページ版あとがき

 いや〜、とうとう終わってしまいました。30すぎての、わたしの青春でしたよ(笑)。
 ああ、もっとやりたかったな〜。フェラーズさん、なぜ路線変更しちゃったの〜。
 このシリーズの思い出はいろいろありますね〜。
 デビュー作で主役コンビのキャラが決まらない、と毎晩泣いて(実話)、吐くまで推敲して(実話)、さんざん苦しんだこと。
 担当さんから返されたゲラが訂正の鉛筆で真っ黒になっていて、思わず寝込んでしまったこと。
 そして今回もまた、いや、いちばん過酷な条件だったか? クリスマス前にゲラが自宅に送りつけられて、正月開けすぐに送り返せと言われたこと。

 う〜む。たのしい思い出よりも、そっち方面ばかりが思い出されるのは、わたしが真性のマゾだからでしょうか。

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