屋敷の主人の悩みは、台所のにおいでした。
お料理のにおいはおいしそうですが、下ごしらえの野菜を茹でるにおいとか、肉や魚のなまぐさいにおいとか、脂を焦がしたにおいなどは、やっぱりくさい。
台所は一階、もしくは地下にあることが多く、小さい屋敷の場合はたいてい地下でした。
地下から上にのぼる階段が、居間に続いていたのですが、においは階段を上昇します。
ドアを厚い緑のラシャ布でおおうことで、においを遮断していました。
屋敷が大きくなると、食堂と台所はできるかぎり遠ざけられました。
長く曲がりくねった廊下、間にもうけられたドアなどで、においは届きにくくなっていました。
迷惑なのは、メイドたちです。
お料理を熱いまま、食堂に運ぶためには、台所でうんと熱くしておかなければならず、食器もがんがんにあたためておいて、大急ぎで運ばなければなりませんでした。
あたためすぎて、銀食器をとかしてしまったこともあり。
廊下には通風口があって、そこから突風が吹きつけたりするので、スフレ運びはたいへんだったそうな。
紙巻き煙草がヨーロッパに広まったのは、クリミア戦争以降です。
トルコ兵やロシア兵が刻みたばこを紙に巻いて吸うのをまねした兵士たちが母国にその習慣を持ち帰ったのです。
それまで、煙草といえば、主流はパイプと葉巻きでした。
葉巻きはもともと遊び人のものとされていましたが、ビクトリア女王(煙草大嫌い)のだんなさま、アルバート公が葉巻き大好きだったので、紳士の煙草に化けました。
すると、今度はパイプの方が労働者の煙草とみなされるようになってしまいました。まぜものをされた品質のよくない煙草も多かったのです。
煙草にダイオウ、ゴボウ、オオバコなどの葉がまぜられていたそうな。
漢方薬? 身体にはよさそうですね。