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<kitchen 台所>

 屋敷の主人の悩みは、台所のにおいでした。
 お料理のにおいはおいしそうですが、下ごしらえの野菜を茹でるにおいとか、肉や魚のなまぐさいにおいとか、脂を焦がしたにおいなどは、やっぱりくさい。
 台所は一階、もしくは地下にあることが多く、小さい屋敷の場合はたいてい地下でした。
 地下から上にのぼる階段が、居間に続いていたのですが、においは階段を上昇します。
 ドアを厚い緑のラシャ布でおおうことで、においを遮断していました。
 屋敷が大きくなると、食堂と台所はできるかぎり遠ざけられました。
 長く曲がりくねった廊下、間にもうけられたドアなどで、においは届きにくくなっていました。
 迷惑なのは、メイドたちです。
 お料理を熱いまま、食堂に運ぶためには、台所でうんと熱くしておかなければならず、食器もがんがんにあたためておいて、大急ぎで運ばなければなりませんでした。
 あたためすぎて、銀食器をとかしてしまったこともあり。
 廊下には通風口があって、そこから突風が吹きつけたりするので、スフレ運びはたいへんだったそうな。

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