大サービス

 今年の夏もまたまた北海道に行ってまいりました。
 わたしの旅行鞄が小さいわりに異常に重たいので、「なにがはいってるの?」と家族に呆れられたけれども、本です、本。
 700ページ以上もあるでっかい文庫本を、飛行機の中でゆっくり読もうと思ったのだが、国際線じゃあるまいし、たかが羽田から旭川までの一時間半の空の旅にそんなものを持っていくわたしは、たしかにどこかずれている。
 ひさしぶりの羽田に浮かれたわたしと妹は、ちょっと遅めの昼食をたらふく食べて、搭乗ゲートをくぐった。
 さて、例の分厚い文庫本、ウィングフィールドの「夜のフロスト」を100ページも読んだだろうか。飛行機は旭川上空についた。
 けれども、なにやら身体に妙な重力がかかりだし、頭が痛くなってきたではないか。やがて機内アナウンスが。
「えー、積乱雲が異常に発達しておりまして、落雷の危険性がありますので、燃料の許すかぎり旋回して待ちます」
 てことは、このいやーな重力は遠心力かい。以前、オーストラリアで果敢に何度も着陸にチャレンジする機長の無謀操縦につきあわされた記憶がよみがえる。まあ、たてに回るより横に回っているほうがラクだけど。
 30分後。「えー、積乱雲がおさまりませんので、投機は新千歳空港に着陸いたします」
 アナウンスの直後、飛行機は突然、ぐんぐんと高度をさげだした。あまりに急激な気圧の変化に「ご気分が悪くなった時の万が一」袋を握りしめるわたし。
 ああー、こんなことなら、ヤクを飲んでくればよかったー。ちゃんと酔い止めを持ってきてたのにー。
 新千歳空港に着陸したものの、なぜか解放してもらえなかった。すでに本は200ページも読んでいる。
 なんと、この機長はどうしても旭川に着陸したいらしく、一時間ほどの給油、整備ののち、またも旭川に向かって飛び立ったのだ。
「えー、積乱雲が若干おさまりましたので、旭川にむかいます」じゃっかん、という言葉に一同、不安になる。
 旭川上空。「えー、思ったより積乱雲が動いておりませんので、このまま旋回を‥‥」ふたたびあやしい重力がかかり、わたしは脂汗をかきだした。もはや体力の限界、とまぶたが震え出した時、おなじみのアナウンスが聞こえてきた。
「えー、これから燃料の続く一時間半のあいだ、旋回を続け‥‥」機内にみなぎる殺気。「‥‥ても、着陸できるみこみがありませんので、新千歳に戻ります」
 新千歳から新千歳まで2時間の旅をサービスされた末に待っていたものは、旭川までの電車で2時間の旅だった。到着は夜10時。わたしの読書は300 ページをすぎていた。
 ところで、この話のオチは、わたしたちが乗った全日空機とほぼ同時刻に旭川着予定だった日本エアシステム機が、昼間に定刻通り、旭川に着陸していた、ということです。


幻の食べ物

 両親が北海道出身なので、我が家は中途半端に北海道文化圏にはいる。
 ゴミはなげるし、手袋ははくし、冬はこたつなしで部屋中をがんがんに暖める。
 それでも微妙なところで、両親とずれを感じるのだった。
 いちばんの思い出は、成人式で母がつくってくれた赤飯のこと。
 その時、母はなんの疑いも持たずに、食紅で染めたピンクのあずきいりおこわを炊いてくれた。わたしと妹は、なにか変だ、と思ったが、なにしろふたりともめったに料理などしないので、疑問を口にする自信がなかった。
 ところがその後、妹が友人にその話をしたところ、「あれはあずきの色で染めるのよ」と呆れられたらしい。
 妹が母に「やっぱり食紅は使わないんだよ」と言うと、母は「だって北海道はそうだもの」とがんばった。「本当はあずきじゃなくて、甘納豆を使うんだから」
「ええー!」「きもちわるーい!」
 しかし、父も母も、むかし食べた赤飯は甘納豆のがふつうで、甘くてとてもおいしかった、と主張する。東京に出てきてはじめてあずきの赤飯を見た母は、なんて貧乏臭い、と思ったそうな。「あれはおいしくない。甘納豆のほうがおいしい」
 そう言われても、どうしても気持ち悪いものにしか思えなかったが、この夏、旭川の西武の地下でついに本物を見つけた。
「うそー!」ほ、本当に売っている。しかも、となりに並んでいるあずきの赤飯まで、食紅でピンクに染まっているではないか! ついに遭遇
 というわけで、ひとパック買って、みんなでわけて食べた。
 おーいーしー。
 考えてみれば、使っているのはもち米と甘納豆なのだから、蒸し物の和菓子みたいなものなのだ。おいしいに決まっている。
「でもさ、これはごはんじゃないよね。お菓子だよね」と言うわたしたちの前で、母は嬉しげに、「これが本当のお赤飯だわ」とぱくぱく食べ続けた。
 甘いものが好きな人には、おすすめの北海道名物(たぶん)です。

メロン

 海の幸も好きだけれど、山の幸はもっと好き、というわたしにとって、野菜がおいしい旭川近郊の夏は天国のようだ。
 千葉で売っている「北海道産野菜」の何倍も甘くておいしい、じゃがいも、かぼちゃ、とうもろこし、トマトをおやつがわりにむさぼる毎日。
 おまけに牛乳もバターもチーズも信じられないほどおいしいし、それらを使ったお菓子はもちろんおいしいし、毎日の主食はラーメンだし、おかげでこの春から始めたダイエットは一時ストップ、いや、後退してしまった。
 材料がいいせいだろうか、そのへんのパン屋さんで焼いている安いパンが、東京の高級デパートのおたかいパンよりずっとおいしい。
 しかも、ちょっと足をのばして富良野に行けば、農家からメロンがごく安く、東京値段の五分の一くらいで買える。
 富良野のメロンもおいしいけれど、今回はあの超有名なメロンを味わおう、と夕張(ゆうばり)に足をのばしてみた。町が近づくにつれてやたらと目立つキャッチコピーの旗。
<ばりばり夕張!>‥‥誰が考えたんだろう。
 まずは夕張炭坑村を見学。
 炭坑の歴史の資料館なのだが、驚いたのは、館内にでっかい黒ダイヤ(石炭のことです)のかたまりがごろごろ展示されていたこと、ではない。
 巨大なアンモナイトの化石がテーブルのように(そのくらい大きい)、そのへんにいくつも、でん、でん、と置かれていることだった。
 なんて大胆な、と思ったが、考えてみれば、石炭というのは古代植物の化石なんだから、そんなものがどっさりとれる場所なら、アンモナイトの化石もごろごろ出てくるはずだ。
 しかも石炭を掘る過程では、化石なんてゴミでしかない。わー、ぜいたく。
 さて、地下の坑道を見学したあとは、近所の土産店で夕張メロンのソフトクリームを食べ、夕張市で作っているメロンゼリー(有名どころよりも味がすなおでおいしい)を買い、いよいよ農家のメロン直売所へ。
 立て札には「ひと玉500 円から」とあった。大丈夫かな?
 あまりの安さに尻込みすると、引き返そうとする匂いをかぎとったのか、直売所のおじさんが、よく冷えたメロンを大きく切って、「味見してよ」と持ってきた。つい、食べてしまった。
 おーいーしー。
 もう二度とこころゆくまで食べられないかも、と思ったわたしたちは、大きめのを3玉も買った。3つで5000円なり。
 もしも食べきれなかったら、千葉に持ち帰るしかないねえ、重いけど、なんて言っていたが、まるで無用の心配だった。あっというまに、消えました。

動物王国

 帰る日が近づくにつれて、わたしは焦りを感じ始めていた。自由時間はあと一日しかない。
「キツネを見たい」と騒ぎ出したのは、その時だった。北見(きたみ)に行って、キタキツネに会おう! 
 旭川から北見までは峠を越えていく。窓の外を見ているわたしたちは、「あっ、うしー、うしー」「うまー、うまー」とはしゃいでいた。トウのたった子供である。
 そろそろ目的の牧場が見えるはず、というあたりで、<キタキツネ牧場>の看板が見え始めた。でも、ガイドブックに書いてあるのと違う。
 よく見ると<キタキツネ牧場>はあちこちにあって、それぞれが<元祖><本家><日本一>というような自己主張をしているのだった。うーむ、わたしらのめざす牧場はどれだ。
 やっと目的地に到着。
 ここでは金網で囲ったなかにキタキツネを放し飼いにしている。囲いの中にはいると、おお、キツネが落ちている
「きつねー、きつねー」と追い回すわたしたち。いまの時期、子ギツネちゃんたちは保育室に隔離されているらしい。秋口になると、この子たちもおんもではねまわっているそうな。
「なんかさー、キツネ、しっぽ細いねえ」「うちのメイちゃんのほうがふわふわだよ」 
 キツネたちはちょうど毛がはえかわる時期だったので、たわしのようにぼさぼさだった。でも、かわいい。
 キツネをたっぷり見たあと、また旭川に戻る車中、歩道でふつうに立っている動物を妹が見つけた。
「あっ!」「なに?」「しかー、しかー」
 振り向くと、鹿が立っていた。
<子供たち>、大喜びです。


 今回、見つけた穴場。(わたしのガイドブックにはのっていなかったの)

 富良野ワインハウスには、おいしい富良野牛が食べられるバーベキュー施設があるよん。屋根もかかっているから、雨の日も平気。
 ガイドブックにのっていたチーズフォンデュ目当てに行ったわたしたちですが、現地でそれを知り、急きょ、変更いたしました。ぶどうジュースもあるので、お酒が飲めない人も「ワインハウスに来た!」という実感があります。

 

おまけ

 ・ベジタリアンなきのこステーキ。(肉がなかったので、目の前に運んでこられたときには衝撃だった)

 ・旭川空港で必ず食べるミルクラーメン。(おいしいのよん)

 ・上空から見た十和田湖。(たぶん)

 ・我が家の妖怪。変身前変身後。(北海道と関係ないですね)

北海道お土産探検隊  http://www.hokkaido-omiyage.com/