バレンタイン

 一昨年の2月初旬。妹が突然、高熱を出した。インフルエンザか?
 しかし、おなかにぽつぽつと真っ赤な水膨れが散っている。ひとめでやばいと思った。実は、わたしも妹も、はしか、おたふく、ふうしんは幼稚園ですませたのだが、水ぼうそうだけはやっていなかったのだ。ついに、きたか。
 やがて、妹は救急車で運ばれていった。ところが、病院では「なんの病気だかわからないから、とりあえず湿疹の薬を出しておくから」と塗り薬だけをくれたそうだ。おいおい、まず熱冷ましをくれ。
 翌日、さらに症状が悪化した妹は、全身がうるしにかぶれたようになって、高熱でふるえながら、またもや救急車で運ばれていった。ところが、「何度も呼ばないでよね」と救急隊員に文句を言われたらしい。なんだとー。40度こえてて立てないんだよ!
 妹は待ち合い室で2時間も待たされた末にようやく診察してもらえた。やっぱり水ぼうそうだった。最近の医者は水ぼうそうもわからんのか。
 ところで、水ぼうそうの潜伏期間は1ヶ月なのだそうだ。
 3月初旬。わたしのおなかに水膨れができた。おおっと思っているうちに、水疱は全身に広がっていく。36度そこそこの体温が急上昇し、たったの30分間で40度になった。からだが追いつかずにがたがた震える。
 ああっ、よくミステリに出てくる「マラリアで震える」というのはこれなのね!
 いや、のんきにそんなことをつかんでいる場合ではない。もちろん病院に直行した。
 みなさんは水ぼうそうになったら、何科に行きますか?
 たいていの人は「病気になったらとりあえず内科に行こう」と考える。風邪をひいても、おなかが痛くても、「とりあえず内科組」がおしかけるので、内科というのはとてもこむ場所なのだ。
 わたしも2時間近く待たされて(たぶんその間に、待ち合い室の病人たちにうつしてしまったに違いないが)やっと診てもらえた。この時は「妹が水ぼうそうだった」と言ったせいか、すぐに正しく診断された。
 さて、処方箋を持ってよろよろと薬局に行くと、薬剤師さんが言った。「水ぼうそうはね、皮膚科に行くといいですよ。すいてるから。どうせ湿疹の薬と一緒だし」そういうことは学校の保健の時間に教えといてちょうだい。
 それにしても、口の中にまでぶつぶつができて、固形物はいっさいのどを通らないし、体中はかゆいし、鏡を見れば化け物が写っているし、もー、殺してー、という病気です。30過ぎての水ぼうそうとゆーのは。皆様もお気をつけあそばせ。

うどん

 夢と魔法の王国、ディズニーランドに行く季節がやってきた。わたしは妹と年に一、二度は行っているのだが、そのうちの一度は必ずクリスマスシーズンだ。
 銀座や恵比寿といったクリスマスのイルミネーションが美しい街もひととおり見たが、ディズニーランドにはかなわない。
 クリスマス絵本さながらの町並みを歩きながら、超巨大クリスマスツリーに心踊らせ、キャロリング部隊の歌を聞いたり、屋台で売られている七面鳥を食べたりしていると、お手軽な海外旅行をしている気分になれる。
 ただし、ここでクリスマスの愉しみを満喫できるのは「体力があって元気な若いうちよねー」というのが、わたしたちの共通した意見だ。クリスマスなんて命がけじゃないだろうか。
 まず、朝は6時に起きる。防寒対策をばっちりしたあとは、7時の電車に乗って、8時にディズニーランドに到着。そしてひとりは入場券を買いに、もうひとりは入場ゲートの前にすでにできている列に並びに行く。チケットを入手したら坐り込み、9時にゲートが開くのをひたすら待つ。
 なんたってすぐ近くは海だし、朝は早いから地面は暖まってないし、とにかく寒い。しかし、どうしても朝いちばんにはいらなければならないのだ。
 なぜならば。
 シンデレラ城の前でクリスマスのすばらしいショーが上演されるのだが、そのチケットはディズニーランド内のブースで先着順に配られる。この死ぬほど寒い時期にわざわざここに来る目的はこのショーのためといっても過言ではない。
 9時になってゲートが開くと、皆いっせいにそのブースをめざして走る、走る。気の毒なのは「お父さん、早くー!」の声を受けて走らされていた、ちょっとお年のおじさんだった。ブースにたどりついたそのお父さんは、わたしの背後で紫色の顔で息も絶え絶えによろよろしていた。
 こうして首尾よく昼の部と夜の部のチケットを確保して、ようやく朝食となる。
 しかしいまはクリスマスシーズン。屋台はスペシャルメニューが目白押しだ。朝からレストランでまともな食事をとってしまっては、お楽しみのジャンクフード、もとい、スナックの数々を制覇できなくなる。(でもほんとにジャンクなのよねー)
 わたしたちのクリスマスの朝ごはんはトゥーンタウンのサンドイッチと決まっている。これがなかなかおいしくてボリュームがあるのだ。腹ごしらえがすむと、すぐにパレードルートに行って場所取りだ。一時間ほど坐り込むだろうか。
 乗り物なんか乗っているヒマはないのだ。
 やがて遠くの方からジングルベルの音楽が華やかに聞こえてくる。サンタクロースのパレードだ。去年からパレードの音楽にあわせてミッキーやドナルドが踊るトナカイダンスの振り付けを、わたしはほぼ完璧に記憶していた。ほほほ、今年も踊りましょうぞ!
 しかし、トナカイダンスは一年の間に進化していた。音楽は同じなのに、振り付けはものすごく複雑になっていた。難しくて踊れん。
 パレードが通過した後、本物のサンタさんに手を振ってもらった余韻にひたりつつ、次のスケジュールにはいる。シンデレラ城の前で、ショーを見るための場所を取って、またも一時間の坐り込みだ。もはや修行に近い。
 ただでさえ寒いのに、吹きつける風がまた体温を奪っていく。ああー、助けてー、寒いようー。
 ところが。
 こんなに待ったのに、ショーは中止になった。理由は強風。そう、ディズニーランドのショーの大敵は雨だけではない。風もだった。忘れていた。
 花火などは小雨くらいならやるが、晴れていても風が吹くと中止になる。
 朝6時に起きたのにー。開演前から一時間も坐ってたのにー。
 唯一の救いは去年同じショーを二回見ているということだった。しかし、ショーがないとなるとヒマだ。しかたがない。
 イクスピアリに探検に行こう!
 それは最近ディズニーランドの隣に出現した巨大ショッピングモールである。行ってみると、やたら高級な店がずらずらずらと並んでいた。目をひくのは軒をつらねる人気ジュエラーの数々。ティファニー、スタージュエリー、etc・・うわー、いかにもカップルがはいりそうな店ばっかり。
 姉妹で行ってもつまんない店ばかりなので、ケーキでも買って帰ろうとしたが、ケーキ一つが500円もしたので即刻店を出た。さようなら、イクスピアリ。
 もう一度、ディズニーランドに戻ったわたしたちは、ハートの女王のレストランでちょっと早い夕食をとった。園内のレストランはほとんどためしたが、洋食ではここがいちばんおいしいと思う。今年のパンはハート形だった。かわいくておいしー。
 本来ならこのあとは<夜のショーを待って一時間ほど坐り込みをし、その後、冷えきった身体を暖めるために和食レストラン北斎で暖をとる>はずだったが、いつまでも強風がおさまらないので、諦めてさっさと帰宅してしまった。
「ディズニーランドに来て北斎なんかはいるやつはいないよねー」
「外人か年寄りだけだよ」
 10年以上前、わたしたちはさんざんバカにしていたものだった。
 それがどうだろう。いまのわたしたちはディズニーランドを北斎でしめくくるようになっているではないか。
 園内にいる間中、あまりにむちゃくちゃな食べあわせをしているので、慣れた味が恋しくなるに違いない。今回もひどかった。七面鳥、ココア、チュロス、ブルーベリーバニラドリンク、スパイスのきいたチキン、さつまいものスープ・・
 毎年、必ずおなかを痛くするのは、寒い中、何時間も坐り込んでいたからだけでなく、このおそるべき食べあわせが原因だとわたしは信じている。
 来年こそは、北斎のうどんで締めくくれるようにちゃんと天気予報を確かめて行こう。雨だけでなく、強風にも気をつけるべし!

  ワンポイントアドバイスその1
 人気メニューのクリスマスピザは行列が出来ていたら諦めるか、時間がかかることを覚悟しよう。店員の要領が悪すぎるので、一時間も並ぶ事になります。おかげで去年はパレードを見のがすところでした。

  ワンポイントアドバイスその2
 地面に敷くのはシートよりもぷちぷちエアクッションのほうが快適。おしりが痛くないし、空気のおかげで冷たくありません。わたしたちはエアクッションを敷いて、その上にレジャーシートをかさねています。