さんまの季節

 今年はひかりもの好きにとって(さばじゃないよ)たまらないイベントがあった。
 上野のお山に世界中の超有名巨大ダイヤモンドがご集結あそばしたのだ。国立科学博物館で開催されるダイヤモンド展。
 そこに2週間限定で、
世界最大級のDカラーダイヤモンド、ミレニアムスターが展示されるという。
 ひかりもの好きの(いわしじゃないよ)母とわたしは、朝いちばんでいそいそと見にいった。上野の美術館はわりとよく行くのだが、博物館は初めてだ。入場チケットを買うだんになってわたしは驚いた。ダイヤモンド展にはそりゃ入場料をとるだろう。それは当然だ。しかし。
「なにー、常設展示にカネをとるだとー」
 国立の博物館がなぜカネをとるのだ。無料で自由に出はいりできるようにしておいてこそ、おとなから子供まで、気軽に科学に興味を持つことができるのではないか。
 オーストラリアの博物館はどこもここも無料だった。カネのないわたしたちは始終、博物館にいりびたって(クーラーがはいってて、椅子があって、トイレもあるから)、オーストラリアの自然や文化を学んだものだ。そーゆーところに税金をだなー、
 と憤慨しつつ、恐竜の大標本のわきを通って、ダイヤモンド展会場にはいった。
 科学博物館主催なだけあって、鉱物としてのダイヤモンドの特性、その生まれ方など、単なる宝石展示会に終わっていないところが興味深い。
 が、あまりまじめでないわたしたち母娘は、そのへんはさっさと切り上げて、ダイヤモンドさまが展示されている部屋に急いだ。
 ティファニーのイエローダイヤ。モンローが身につけた「バローダの月」。ブラウンダイヤの「インコンパラブル」。どれもこれも非常識な大きさのダイヤばかりだが、
ミレニアムスターの前では完全に脇役にまわってしまう。
 ああ、なんてきれいなのかしら。
 うっとりと見ているわたしのまわりでも、人々の声があがった。
「これ、いくらくらいなのかしらねー」
「彼女つれてこなくてよかったよ、ダイヤ買え買えってうるさくてさ」
「盗むのはたいへんだわね」
 さて、昼も近くなったので、博物館内の食堂にはいった。メニューを見ると、
「そ、草食ランチ!」ステゴザウルスの絵が描いてある。なるほど。ベジタリアン向けのメニューね。
 となりには肉食ランチもあった。
 テーブルクロスも恐竜の絵だし、いたるところに遊び心が感じられる。うーむ、あなどりがたし、科学博物館。こんなゆかいなところだったとは。今回は常設展示を見るひまがなかったし、また遊びに来たいわ。
 入場料がタダならね。

おみやげオムニバス

 日本製紙旭川工場付属の施設、紙遊館。ここには牛乳パックをばらしたパルプで手作りハガキを作る体験コーナーがある。わたしと母はつれだって、このリサイクルハガキを作りにいった。(父は仕事をしていた)
 まずは館員のかたに牛乳パックのパルプ作り行程を見せてもらい、次に手順を教えてもらいながらハガキを作る。ハガキの型でパルプのとけた水を
すくい、水気をしぼり、アイロンをかけてできあがり。
 おおー、こんなに簡単ならうちでもできるじゃん。
「次はなにかいれてみますか」と、館員のかたが押し花を出してくれた。私と妹がはがきにすきこむ押し花を選んでいると、母がわがままにも「ラベンダーをいれたい」と言い出した。ラベンダーの押し花もドライフラワーもその場にはない。しかし母は、ラベンダーがそのへんにはえていたから、つんできてハガキにいれると主張する。
「でも、なまの花はちょっと‥‥」
 製紙工場の人だけあって、紙のプロたる館員のかたは、できあがりが汚くなるかも知れない、とこだわりを見せてしぶったが、「失敗してもいいから」と母はラベンダーをむしりに外に走っていってしまった。お、おかーさーん。
 意気揚々とひきあげてきた母は
ラベンダーをいれて、ハガキにアイロンをあてた。じゅっという音とともに、香りがたちのぼる。
 おおー、いい感じ。
 さっそくわたしも母からラベンダーをもらって作ってみた。やはり、なまの花だけあって厚みがあるためか、
ハガキはぼこぼこしてしまった。裏にもなんとなく染みがにじんでいる。でも、ラベンダーの色はひと月ちかくたった今もあせず、とてもきれい。
 自分のおみやげだから、多少ぶさいくでもオッケーです。

   紙遊館 http://www.npaper.co.jp/shiyukan/

 旭川グランドホテルには、とてもおいしい中華料理店がはいっている。わたしと妹と母は、そのレストランに旭川で最後の夕食をとりにいった。(父は仕事をしていた)
 点心、ふかひれスープ、えびチリなど、定番メニューもとてもおいしい。なかでもおいしかったのが、うなぎのからあげ甘酢あんかけで、これはぱくぱくとたくさん食べてしまった。
「ああ、タッパーを持ってくればよかった‥‥」
 しきりにくやしがったのは、しかし、料理を持ち帰りたいという理由ではない。
 
小鳥さんをおみやげにしたかったのだ。
「すごいねー」「かわいいねー」「もってかえりたいねー」
 しかし、うなぎが全部なくなってしまうと、お皿は無情にも、にんじんの小鳥さんごとさげられてしまった。
 しくしくしく。
 その後、仕事を終えて合流した父がビールを頼むと、いったひまわりの種がおつまみにだされた。以前、「金瓶梅」で藩金蓮の大好物がひまわりの種のお菓子だった、というのを読んで、「なぜそんな妙なものを?」と思っていたのだが、これは中国ではとてもポピュラーなスナックなのだそうだ。
 中国の人は子供の頃からこれを食べているので、ひまわりの種を口にほうりこみ、口中で瞬時にからを割り、中身だけ食べてぷっとからだけ出すという特殊技能を、誰もが身につけているらしい。
 戦時中、日本のスパイが完璧なほど中国人に化けて潜入したが、お酒の席でこのひまわりの種をじょうずに食べられず、スパイとばれてつかまったそうな。
 わたしたちがもたもたとからをむいていると、支配人さんはそんな話をしてくれた。
「ほかになにか珍しいものを食べてみますか」と親切にきいてくださったが、もうおなかがいっぱいで食べられない。
 それより、あの小鳥さんがおみやげでほしいーーーーー。

 旭川空港のお楽しみはミルクラーメンだ。食べるまではかなりの勇気がいるけれども、いちどためすとやみつきになる。スープに北海道牛乳がはいっていて、北海道とうもろこし、北海道アスパラガス、北海道バターがのっかっている。おーいーしー。
 さて、はらごしらえがすんだところで、千葉に持ち帰るおみやげ選び。マルセイバターサンド、ロイズの生チョコレートというのは有名だし、たしかに我が家でもナンバーワンの人気をあらそうおかしなのだが、真夏を通り越してド夏の千葉に持ち帰ると、どうしても溶けて風味が落ちてしまう。
 そこで今年は、高温を気にせず持ち帰ることのできるおみやげでなにかめずらしいものを、と探してみた。そして選んだのが、
これこれ。味より見た目で選ぶところがわたしたちらしいが、家で試食してみるとなかなかおいしい。(ラーメンはにんにくが苦手なひとにはちょっとにおいがきついかも)
 女の子向けには、いいおみやげじゃないでしょうか。

後遺症

 旭川といえば大雪山が有名であろう。その広大な山系のひとつ、旭岳(あさひだけ)のロープウェイが七月にリニューアルオープンした。せっかくだから一家で遠足に行こう、とわたしたちは旭岳ウォーキングに出かけた。
 ロープウェイは大きくてきれい。できたばかりだから駅もぴかぴかだ。しかし、運賃は往復2800円と日本一高く、4人家族が往復すると一万円を突破してしまう。ま、お父さんが払ったからいいんだけどさ。
 山の空はかわりやすいし、朝早く出発したので、どんな天気か心配だったが、なんともみごとな青空となった。撮影係の妹もはりきる。
 ロープウェイの姿見駅につくと、そこからは一周が約一時間のウォーキングコース。まずは愛らしい看板を撮影して、姿見ノ池めざして歩き出した。高山植物が遊歩道の両脇に群生している。ミヤマリンドウミヤマキンバイチングルマ。標高があまりに高いので、松の木も腰ほどまでしかなく、天然の盆栽のようだ。
 30分以上かかって、ようやく姿見ノ池に到着した。旭岳山頂がその美しい姿を映す鏡のようなので、そう呼ばれているのだ。父と妹は元気にカメラで「神々の庭」たる周囲の景色を撮りまくっていたが、母とわたしはベンチに坐って死んでいた。ううー、ロープウェイまで戻れるだろうか。
 でも帰道はくだりだから少しはらくだよね、と思っていたら甘かった。岩がごろごろして足場が不安定なので、ころばないように緊張して歩かなければならない。疲労と緊張でだんだん無口になる一家だったが、こちらの道では行きに見ることのできなかったものをふたつ見つけて、そのときだけは元気になった。
 ひとつは、どうみてもこけとしか思えない草になっているすぐりのような実。「これってコケモモじゃない?」「へー、これがコケモモかー」「たしかムーミンがコケモモのジャムを食べていたよ」「ムーミンのコケモモだー」うろ覚えの知識をもとにはしゃぐ姉妹。
 もうひとつは残雪だった。八月だというのにずいぶんしっかり残っているものだ。
 よろめきながらようやくたどりついた姿見駅からロープウェイで下に戻り、登山口の駅の食堂でラーメンを食べた。おーいーしー。
 さて、あれだけふうふう言っていたわりには、次の日も、その次の日も、誰も筋肉痛にならなかった。なーんだ、わたしたち、まだまだいけるじゃん。
 しかし三日目。妹が急に苦しみだした。「あしがー、いたいー」そして、サロンパスを足の裏からふとももまで貼っていた。
 しょーがねーな、あたしよりばばーじゃん。
 四日目。わたしの脚は激痛におそわれた。「うおー、あしがー、いたいー」わたしもまたサロンパス女となった。
 歳をとるごとに、運動してから筋肉痛になるまでの間隔は長くなるものだが、確実にわたしは妹よりも年寄りであると証明されてしまったわけだ。
 この順番でいくと、次は母がやられるはずなのだが、いっこうにその気配がない。お母さんはずいぶん元気だね、と思っていたら、一週間たって突然、騒ぎだした。「いたいー、あしがー、こしがー、せなかがー」
 あれから三日。母はまだタイガーバームを塗りたくって寝こんでいる。

夏休み

 北海道は涼しい。
 はずなのに、なぜわたしが行くと、いつも異常気象で死ぬほど暑いのだろうか。
 去年、函館に行った時は沖縄よりも暑い夏となり、無防備に両肩まるだしで歩いていたら、日焼けでひどいめにあった。
 今年、旭川にはいった日は、記録的な猛暑初日で、千葉の自宅でもやったことがないのに、クーラーをつけて寝るはめになった。
 しかし、「千葉より暑いー」と文句をたれていたわたしたち一家は、北海道から帰ってくるなり「千葉は暑いー」と文句をたれた。同じ暑さでも質が違う。東京、千葉は蒸し暑いのだ。だから、ちょっと外出して戻るとすぐにお風呂にはいる。
 このお風呂に今はラベンダー蒸留水をいれているので気分爽快。もちろん北海道みやげです。
 
旭川ちかくの富良野(ふらの)にはたくさんのラベンダーファームがある。初めてこのラベンダー畑を見た時には、心の底から驚いた。どこまでも広がる一面の紫。パッチワークのように何色もの花が植えられている畑もあり、その美しさはほかでは見る事ができないと思う。
 北海道の花は東京近郊では考えられないような咲きかたをするのだ。パンジー、しょうぶ、あじさい、ひまわり、コスモスが、いっぺんに満開になる。北海道出身の両親は、「今しか咲ける時がないから、こういう咲きかたをするんだよ」と言った。
 これら四季折々の花を一度に使って作る畑(もはや花壇という規模ではない)だから、当然、華麗になる。しかもラベンダーだらけだから、風が吹くたびにいい香りがする。
 わたしたちは畑の中を歩きながら、ラベンダーソフトクリームを食べ、牧場の牛乳を飲み、ハーブバターを塗ったゆでじゃがいもを食べた。おーいーしー。
 三年連続で通っているけれども、また行きたい。絵にも描けない美しさなのです。

 ファーム富田 http://www.farm-tomita.co.jp/